INSIGHT
画面を再現できた。それだけで、いまのシステムを捨てるな
新しい画面で一通り操作できても、過去データ、例外、連携、復旧まで引き受けられるとは限りません。現行システムの廃止前に、移す仕事と戻せる条件を確認します。
顧客を検索する。登録内容を直す。帳票を開く。新しい画面では、会議で頼んだ操作が一通り動いた。試作の速さに手応えがあり、「年度末で現行システムを解約しよう」という話が出る。
その決裁は、いったん差し戻すべきです。
画面の再現は、試作としての成果です。けれど、過去データ、月末の例外、他システムとの連携、誤更新からの復旧まで、新しい仕組みが引き受けられる証拠にはなりません。廃止日を決める前に、画面の外にある仕事と資産を数えます。
画面は、業務の入口しか見せない
現行システムを使う仕事は、ログインしてボタンを押す部分だけではありません。登録前の確認、締め後の訂正、他部署への連絡、監査のための履歴保存、障害時の復旧まで続きます。
依存関係とは、一つの処理やデータが、別の担当、帳票、外部サービス、契約、手順に頼るつながりです。顧客一覧を同じ形で表示できても、そのデータが請求、配送、問い合わせ履歴、権限管理へどう渡るかは画面から分かりません。
廃止の前に、少なくとも次の四つを一覧にします。
- データ:現在の記録、変更履歴、添付ファイル、保存期間
- 例外:取消、締め後の修正、担当者不在、通常外の承認
- 連携:読む先、書き込む先、処理の順番、失敗時の重複防止
- 復旧:バックアップ、戻せる時点、復旧を決める人、復旧後の照合
一覧に出にくいのが、人に残っている仕事です。月末だけ古い担当者が数字を直している。連携エラーをメールで知らせ、別画面から再入力している。その作業が不要になったのか、新しい手順へ移ったのか、まだ誰にも渡っていないのかを分けます。
同じ画面が動くことと、同じ業務が終わることの間には、データ・例外・連携・復旧があります。
費用比較から消えている仕事を戻す
試作費と現在の保守費だけを比べると、新しい仕組みは安く見えます。しかし、比較する範囲が違えば、その差額を削減効果とは呼べません。
新しい案の見積りに、データ移行、外部連携、権限設定、例外対応、監視、問い合わせ対応、障害復旧、将来の変更を含めます。現行側にも、契約費だけでなく、手作業、変更にかかる時間、特定担当者への依存を含めます。
英国政府のManaging legacy technology は、旧来の技術を扱う際に、依存関係、データ、契約、能力などの制約を確認し、複数の移行戦略を検討する考え方を示しています。英国行政向けの一般指針であり、AIへ置き換えた場合の費用や効果を示す資料ではありません。ここから先の比較項目と決裁手順は、この考え方を自社の判断へ移すための提案です。
移行中に旧新両方を動かす費用も見落とせません。二重入力、照合、利用者教育、問い合わせ窓口が一定期間増えます。それを「現場が慣れればなくなる」と消さず、誰が何か月担うのかを見積りへ戻します。
全面置換以外の案も、無条件には安全ではない
決裁へ出す案は、全面置換だけではありません。ただし、別の方式を選べば確認が不要になるわけでもありません。
| 選択肢 | 向いている場面 | それでも確かめること |
|---|---|---|
| 現行を維持する | 変更の利益より移行負担が大きい | 保守期限、費用増、担当者依存、将来の変更余地 |
| 一部を補助する | 下書き、検索、確認などを軽くしたい | 入力情報、誤りの見つけ方、人の確認、結果の保存 |
| 外付けで操作する | 現行画面を残し、決まった操作を支援したい | 到達できる情報、実行権限、誤操作、画面変更、重大操作前の確認 |
| 段階移行する | 部門や機能を分けて照合できる | 旧新の正本、二重入力、同期ずれ、対象を広げる条件、切戻し |
| 全面置換する | データと業務を新環境で引き受ける根拠がある | 移行照合、例外、連携、復旧、契約終了、全利用者の受入れ |
段階移行は、旧新の役割と対象を限定し、結果を確かめてから次の範囲へ進む方法です。戻しやすくなる一方、二つの仕組みの間でデータがずれたり、現場の作業が増えたりします。
補助や外付けも同じです。現行システムを作り直さずに価値を試せる一方、既存画面の変更で動かなくなる、広すぎる権限で誤操作する、入力情報が別サービスへ渡るといった確認が生まれます。方式の名前を安全策にせず、その案で新しく増える依存関係まで決裁資料に載せます。
全面置換の再開には、廃止後を試した証拠が要る
「十分にテストした」だけでは、廃止決裁を再開できません。承認者が確認できる形で、次の証拠をそろえます。
- 移すデータと移さないデータが決まり、件数・金額・履歴の照合結果がある
- 通常処理だけでなく、締め後の訂正や取消など対象業務の例外を試している
- 外部連携の成功・失敗・再実行を試し、二重処理を防ぐ手順がある
- 利用者ごとの権限を確認し、重要な更新や送信を誰が承認するか決まっている
- 障害時に戻す状態、手順、判断者を決め、実際に復旧を試している
- 現行契約と旧環境をいつまで残すか、延長が必要な場合の条件がある
- 未確認事項、担当、期限、満たせない場合に選び直す案が記録されている
たとえば「対象部門の直近三か月分を移し、顧客件数と請求合計の一致を業務責任者が確認する」「連携停止時の復旧を担当者が実施し、再送による二重登録がないことを記録する」と書けば、完了を判定できます。
ただし、この試験で確認できるのは、その部門と期間の範囲です。件数と合計が一致しても、顧客と請求の対応、添付資料、変更履歴まで移った証拠にはなりません。移さない過去データをいつまで誰が参照するかも決め、旧契約を終えてから必要な記録へ届かない事態を防ぎます。
証拠が欠ける範囲は、廃止対象から外します。新しい仕組みを限定利用しながら確認を続けるか、補助や部分改善へ案を戻します。試作を消す必要はありませんが、試作の成功を旧環境の削除理由には使いません。
旧システムの廃止日より先に、引き受ける業務と戻せる期限を確かめる
決裁書の最初に書くべきなのは、「新しい画面が完成した」ではありません。どの業務を引き受けられたか、どこが未確認か、問題が出たらいつまで旧環境へ戻れるかです。
全面置換が最もよい場合もあります。現行の維持、補助、外付け、段階移行の方が合う場合もあります。答えは方式の新しさではなく、同じ業務範囲、同じ期間、同じ責任で比べた結果から選びます。
現行システムを捨てる決裁は、画面を再現できた日に始めるものではなく、画面の外まで引き受け、戻れることを確かめた日に再開するものです。