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社内検索ができた。それだけで、全社の文書をAIにつないではいけない

RETHINK|判断を問い直す AI / リスクと対策

検索できる文書を増やす前に、その回答を誰へ見せてよいか確かめたか。

規程、議事録、営業資料を探せる社内AIを作った。質問すると、数秒で答えと出典が返る。もっと答えられるように、次は全社フォルダも接続しようとしている。

その拡大は、ここで保留してください。

検索が動いたことから分かるのは、接続した資料を探し、回答に使えたことです。元の保管場所にあった閲覧制限が、文書の取り込み、索引、検索結果、回答、会話履歴まで保たれているかは別に確かめます。

文書を見つけられることと、その質問者に見せてよいことは、別の判断です。

「全社文書」という一つの箱はない

人事の評価資料、顧客との契約書、役員会の議事録、営業提案、公開済みの規程。どれも社内にある文書ですが、見てよい人と利用目的は違います。元の保管場所で閲覧者を分けてきた理由は、検索AIにつないでも消えません。

接続を検討する文書には、少なくとも四つの情報を付けます。

  • 所有者:内容と公開範囲を決める人
  • 利用目的:どの業務の回答に使うか
  • 閲覧条件:部署、担当案件、役割、期間
  • 取扱い:追加、更新、削除を誰が決めるか

「社員なら全員」「管理職なら全部」といった大きな区分だけでは、案件や時期による境界を表せません。委託先との共同資料、退職者の引継ぎ、異動前の案件なども、元文書の条件へ戻って決めます。所有者と条件が分からない文書は、全社接続の候補からいったん外します。

元文書から回答まで、境界が失われる場所を探す

社内検索は、元文書をそのまま画面へ出すだけとは限りません。一般に、次のような段階を通ります。

「元文書 → 取り込み → 文書の分割 → 索引 → 質問に応じた取得 → 回答・履歴」

元文書で部署別の権限があっても、取り込み時に誰向けの文書かという情報が落ちるかもしれません。分割した断片へ権限が引き継がれても、検索時に質問者と照合しているかは別です。回答そのものを見せなくても、文書名、出典、要約、候補語から内容を推測できる場合があります。削除した資料が索引や会話履歴に残ることも、確認対象です。

画像内の文字、表、添付、ファイル名も資料の一部です。「本文は出していない」という説明だけで、見える情報の範囲は判断できません。

元文書の権限をどこで保持し、質問者に合わせてどこで取得・表示を制限するか。そのつながりを確かめます。

許可されない人が「何も得られないか」を試す

有用性の試験は、見られる人が必要な答えを得られるかを確かめます。閲覧境界の試験は、見られない人が何を得るかを確かめます。両方が必要です。

二つ以上の部署に相当する試験アカウントと、閲覧できる・できない条件を付けた試験文書を用意します。管理担当と合意した環境で、許可されない人が、文書名、断片、要約、回答、出典、リンク、会話履歴を取得できないかを試します。質問の言い方を変える、複数の質問を重ねる、前の会話を続ける、リンクを直接開く、権限を変更した直後に聞く、文書を削除した直後に聞く、といった条件も記録します。本番の機密文書を無断で取り込んで試す方法にはしません。

不合格が出たら、検索全体を諦める前に、どの段階で境界が消えたかを切り分けます。元文書の権限が曖昧だったのか。分割時に情報が落ちたのか。取得時に照合していないのか。回答や履歴の見せ方に問題があるのか。場所が分かれば、文書所有者と技術担当へ修正を渡せます。

一般資料は、禁止や安全の判定に使わない

個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起 は、利用目的、入力情報、提供先での取扱い、学習利用などを確認する論点を示しています。2023年の資料であり、社内文書を検索へ使うことを一律に禁じる判断ではありません。どの情報を何のために扱い、提供先でどう扱われるかを確認する入口になります。

NISTのGenerative AI Profile は、情報、第三者依存、役割、継続評価、停止・廃止をリスク管理の論点として整理しています。日本の個別業務の適法性を判定する資料ではありません。文書所有者、検索基盤の担当、利用部門、外部提供者の役割を分けるための参考にできます。

OWASPのLLM Top 10 2026 も、機密情報、過剰な権限、検索基盤などを整理した資料です。実事故件数の順位ではありません。これらの一般資料から「自社でも情報が漏れる」と断定せず、自社で未確認の段階と試験を明らかにします。

全社接続を再開する条件

次の文書や利用者を追加する前に、次の四点を確認します。作成者が技術的につなげられても、検索対象と閲覧範囲の許可は文書所有者へ確認します。

  1. 文書ごとに所有者、利用目的、元の閲覧条件、検索対象に入れる可否がある。
  2. 取り込みから履歴まで、どこで権限を保持し、質問者と照合するか説明できる。
  3. 権限の異なる利用者と文書で、許可と拒否の両方を試している。
  4. 文書・権限・検索設定の変更を承認する人と、問題時に検索を止める人が決まっている。

欠ける場合は、所有者と閲覧条件を確認できた文書、試験済みの利用者だけへ戻します。全社フォルダを一度につながず、部署や用途ごとに境界を保てる範囲を広げます。

再開は回答の便利さではなく、誰に何を見せたか、見せなかったかを段階ごとに追える状態で決めます。

文書を追加する前に、所有者の許可と閲覧権限の試験をそろえる

次に文書を追加する前に、その所有者へ、回答に使ってよいか、誰へ見せてよいかを確かめてください。その条件を試験文書へ付け、権限のないアカウントでは回答や出典を取得できないかを試します。文書所有者の判断と、自分が行った試験を別々に残してから、検索範囲を広げてください。

参考資料