INSIGHT

金融機関の社内AI活用——規程照会の答えを、顧客判断へそのまま渡さない

ACTION|次の確認へ AI / 活用のヒント

一般の規程回答を、目の前の顧客の判断へそのまま使ってよいか。

融資担当者が、社内AIに繰上返済の手続を尋ねた。回答は読みやすく、規程らしい根拠も付いている。担当者はその文章を顧客へ送ろうとしたが、顧客の契約日、商品区分、個別の特約はまだ確認していなかった。

社内照会に役立つ回答と、顧客の取引へ適用できる説明は同じものではありません。規程を探す仕事が終わっても、顧客、契約、取引時点、例外を照合する仕事は残ります。

回答に「どの規程の、どこまでか」を付ける

社内AIの回答を、正しいか誤りかの二択だけで見ないことが大切です。参照した規程名、版、施行日、該当箇所、対象となる商品や手続を表示し、原文を開けるようにします。複数の文書が関係する場合は、どれを優先したかも確認できる状態にします。

回答が「一般的な事務手続」を説明しているのか、「この顧客に適用する条件」まで照合したのかも区別します。社内向けの用語解説や必要書類の案内に使えても、顧客の契約内容、過去の手続、例外承認を見ていないなら、その範囲を明記します。

検索対象へ登録する文書にも境界があります。規程の本文、業務マニュアル、過去の照会回答、研修資料が同時に見つかると、どれが正式な根拠か分かりにくくなります。規程管理部署は文書の種類と優先関係を定め、過去の回答は当時の事情を示す参考として分けます。廃止した文書が回答へ混ざらないかも、更新時に確認します。

規程管理部署は正本と更新日を持ち、業務部署はどの場面へ使うかを定めます。システム担当は、回答から原文へ戻れるか、更新された規程が検索対象へ反映されたかを共有します。

ただし、旧規程をすべて消せばよいわけではありません。過去の取引や経過措置のある契約では、当時の版が必要になる場合があります。現在の一般案内に使う版と、特定時点の契約を調べる版を分け、質問の時点が不明なら確認へ戻します。

顧客へ渡る手前に、別の確認を置く

内部照会の出力を顧客へのメールや面談資料へ転用すると、用途が変わります。顧客担当は、本人と契約を取り違えていないか、質問の時点に適用する文書か、必要な事実がそろっているかを確認します。不足があれば、AIに推測させず、顧客へ追加確認するか、判断できる部署へ渡します。

何を顧客担当が確定でき、何を審査、商品、コンプライアンスなどの担当へ回すかを、質問の種類で決めます。たとえば一般的な受付時間の案内と、手数料や取引可否の個別説明では、確認する資料と権限が異なります。

顧客へ届く文章は「社内で検索済み」ではなく、「この顧客の条件を権限のある人が確認済み」と言えるところまで引き渡します。

金融庁の資料は、許可証でも一律の監督基準でもない

金融庁が公表した第1.1版の改訂概要 では、顧客向けサービスのリスク低減を、提供前の設計・事前検証、提供時の説明、提供後の検証・モニタリング、それらを支えるガバナンスに分けています。本文 と合わせ、金融機関からの相談・照会で参照する取組例として読みます。

この文書は、ある使い方を包括的に承認するものでも、すべての金融機関へ同じ対策を一律に課す監督基準でもありません。掲載された事業者の取組や意見と、金融庁自身の整理も区別して読みます。本稿の規程表示や引渡し手順は、その論点を社内照会の場面へ当てはめた提案です。

資料を会議へ持ち込むときは、「文書に書かれたこと」「自社で確認したこと」「これから合意すること」を三つの欄に分けます。公的資料の名称だけを、個別案件の判断根拠にしません。

社内AIの試行では、この四つの局面をそのまま確認表に写すのではなく、規程照会という一件へ落とします。提供前には参照範囲を試し、顧客へ渡す時には注意書きだけで済ませず人へ切り替え、提供後には誤った案内を訂正できるかを見る、という具合です。

更新と顧客対応を、同じ記録で追う

試行では、社内質問、参照した規程、AIの回答、担当者の修正、顧客へ実際に伝えた内容を対応させます。誤答率だけでなく、古い版を参照した件数、個別条件が不足した件数、人へ引き継いだ件数、回答までの時間を見ます。

規程改定や商品変更のときは、規程管理部署から業務部署とシステム担当へ知らせ、反映確認が終わるまで対象の回答を保留して担当部署へ回すなど、暫定運用を決めます。注意表示を付けるだけで、古い条件を顧客へ確定案内しません。過去に正しかった質問を再度試し、原文と回答の対応を確認します。

顧客から「前回と説明が違う」と連絡があった場合は、現在の規程だけを見て終えません。前回の回答時点で参照した版、担当者の修正、実際に送った文章をたどり、必要な訂正と説明を顧客対応責任者へ渡します。照会履歴は回答者を責めるためではなく、改定の反映漏れと引渡しの断絶を見つけるために使います。

顧客対応責任者、規程管理、コンプライアンス、システム担当は、どの誤りなら利用範囲を狭めるか、誰が訂正連絡を判断するかを先に合意します。展開の判断は回答数ではなく、更新後にも原文へ戻れ、個別条件を人へ渡せるかで決めます。

規程の答えを個別顧客へ使う前に、契約条件を確かめる担当者へ渡す

社内AIは、膨大な規程から確認箇所を探す助けになります。そこで得た回答を顧客判断へ移すときには、規程の適用範囲から個別契約へ確認対象が変わります。

規程の版と該当箇所を示し、顧客条件を確認できる担当へ渡し、実際に説明した内容まで記録する。この境界があれば、社内検索の速さを保ちながら、顧客への説明を推測に任せずに済みます。

参考資料