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AIの推定を、勤怠の確定値にするな。——給与計算へ渡す前に
打刻漏れを埋めたAIの推定を、事実確認なしに給与計算へ渡す運用へ変えてよいか。
打刻がない日に、AIが予定表、入退館、端末の利用履歴、過去の勤務から終業時刻を補った。もっともらしい時刻が並ぶので、本人確認を省き、給与計算へ自動で渡したいという案が出ている。
この運用変更は止める。予定や機器の利用から推定した時刻は、実際に働いた時間を確認した記録ではない。漏れを見つけ、確認候補を作る機能と、勤怠を確定し給与へ渡す権限を分ける必要がある。
AIの推定だけで始業・終業を確定し、勤怠承認と給与計算へ自動連携してはならない。
いま止めるのは推定値の確定と給与連携
停止する対象は、打刻漏れをAIが自動補完して確定済みにする設定、本人が見ないまま上長承認へ回す処理、未確認値を給与計算へ送る接続、異議が出た値を自動で再計算・上書きする運用である。すでに連携している場合は、対象期間と従業員を特定し、未確認の値を保留へ戻す。
打刻漏れを検知する。予定表や入退館を確認候補として並べる。本人へ修正依頼を出す。こうした補助は、情報の利用条件と既存手順を確かめた範囲で続けられる場合がある。「候補」「本人申告」「確認済み」を画面とデータ項目で分け、推定が時間の経過だけで確定へ変わらないようにする。
労務、給与、現場の承認者、システム担当には、停止する自動処理と、締日までの代替手順を同じ文面で伝える。締切が迫っていることは、事実確認のない推定を確定値にする理由にはならない。
止めるのは、未確認の推定を確定値にする処理であって、従業員への給与支払い全体ではない。締日までに解決しない差異は労務・給与担当へ引き継ぎ、確認できた記録と既存の訂正手順に基づく対応を決める。AIの確認待ちを理由に、担当者の判断で支払いを遅らせない。
事実・手掛かり・推定を別の欄に置く
予定表に会議がある、建物へ入った、端末を使ったという記録は、確認の手掛かりになる。ただし、会議予定の変更、休憩、外出、在宅勤務、端末を使わない業務、通信障害などがあり、個々の記録だけで始業・終業が確定するとは限らない。
確認画面では、元の打刻や承認済み記録、入退館・端末などの手掛かり、本人の申告、AIの推定を分ける。推定には、参照した情報、対象日、推定理由、食い違いを付ける。本人と承認者が、どの記録から候補が出たかを開けるようにする。
厚生労働省の労働時間の適正な把握に関するガイドライン は2017年1月20日策定で、使用者が労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、原則的な方法として現認、またはタイムカード、ICカード、パソコン使用時間などの客観的な記録を基礎に確認することを示している。自己申告と入退場記録等に著しい違いがあれば、実態調査と必要な補正を行う考え方も示す。
この資料は、AIの推定を確定値としてよいという根拠ではない。適用範囲や例外、個別の労働時間の認定、賃金計算は、事実と制度に即して労務の専門担当が確認する。
働き方の違いを例外試験へ入れる
平均で時刻が近いだけでは、一人分の勤怠を確定できない。在宅と出社が混じる日、直行直帰、夜間・休日、複数拠点、休憩を挟む日、端末を使わない作業、通信障害、打刻の修正が続く日を試す。
予定表、入退館、端末履歴は、勤務実態の代わりに使われる代理変数になり得る。特定の働き方で記録が少ないからといって、勤務時間が短いとは限らない。例ごとに、どの情報が不足すると推定を出さないか、誰へ本人確認を戻すか、承認者が何を見て保留するかを決める。
本人が「実際と違う」と伝えた例も通す。訂正の申出によって不利益が生じない窓口、確認期限、給与締め後に訂正が必要になった場合の担当を用意する。具体的な給与処理は社内規程と個別事情に従う。
働き方によって手掛かりが少ない人ほど不利になるなら、その推定を給与の確定へ使わない。
本人・承認者・給与担当が別のことを確認する
本人は、実際の始業・終業と休憩、表示された手掛かりの食い違いを確認する。承認者は、業務の状況、元記録、本人申告、未解決の差を確認し、確定または差戻しを決める。給与担当は、確定状態、対象期間、訂正の有無を見て計算へ取り込む。AIは候補を示しても、この三つの確認を一つの同意ボタンへまとめない。
2024年の生成AIリスク管理プロファイル では、虚偽の出力、情報、人とAIの役割、継続評価などが論点として整理されている。NISTの任意文書であり、日本の勤怠・給与手順を定めず、個別制度への適合や推定の精度を保証するものでもない。ここでは、推定を作る機能と、人が事実を確認して業務へ反映する役割を分ける参考にする。
再開は六つの記録がそろうまで認めない
給与連携を再検討する条件を、推定の平均誤差だけにしない。少なくとも次を記録する。
- 推定を使う従業員、勤務形態、対象期間と対象外
- 元記録、手掛かり、本人申告、AI推定を区別した表示と保存
- 勤務形態・例外ごとの試験と、推定を出さない条件
- 本人の確認・訂正、承認者の差戻し、給与担当の受領結果
- 誤った確定値を訂正し、給与や記録へ反映する手順
- 情報源、勤務制度、設定を変えたときの停止・再評価担当
六つがそろわない間、AIの推定は確認候補にとどめ、既存の勤怠修正と承認を使う。そろっても、本人の確認ができない例、元記録が大きく食い違う例、制度上の判断が必要な例は自動確定から外す。
再開は時刻を補えた結果ではなく、本人確認、承認、給与連携、訂正を一件ずつ追えた結果で決める。
AIの推定を実際の労働時間と照合し、訂正を追える状態で給与へ渡す
打刻漏れを探し、確認候補を示すAIは、勤怠確認の入口になり得る。そこで作られた推定は、実際の労働時間を確認した記録ではない。自動確定と給与連携を止め、事実・手掛かり・推定を分ける。本人、承認者、給与担当がそれぞれ確認し、訂正まで追える範囲だけを再検討する。それが給与へ渡す前の境界である。