INSIGHT
外部のAIが止まったとき——顧客対応と復旧判断を誰が担うか
原因が未確定でも、誰が何を伝え、どの条件で再開するか。
午前10時、問い合わせ対応を支援する外部AIが応答しなくなった。提供元の状況ページには「調査中」とある。現場は回答案を作れず、外注先は連携部分を調べている。顧客からは「いつ返事が来るのか」と聞かれ始めた。
このとき必要なのは、原因が分かるまで全員で待つことではありません。原因を調べる仕事、顧客へ状況を伝える仕事、別の方法で続ける仕事、自社の業務を再開する仕事を分けることです。
提供元の復旧を待つ間にも、自社が顧客へ約束している仕事は続く。技術復旧と顧客対応を別の時計で動かします。
「どこが悪いか」と「何を伝えるか」を切り離す
障害の直後は、外部サービス、自社設定、外注先の連携、通信経路のどこに原因があるか判定できないことがあります。ここで技術担当が原因を確定するまで顧客対応も止めると、知らせるべき時点を失います。
技術担当は、発生時刻、失敗した操作、影響する機能、正常だった最後の時刻をそろえ、提供元と外注先へ渡します。顧客窓口は、原因の推測をせず、使えない機能、現在受け付けられる依頼、保留中の依頼、次の連絡時刻を知らせます。業務責任者は、手作業へ切り替える対象と、誤処理を避けるため止める対象を決めます。
デジタル庁の生成AI調達・利活用ガイドライン第2.0版 には、政府情報システムの調達で、期待品質、入出力、障害時の取決めなどを確認する資料が含まれます。民間企業の契約責任や補償を決める文書ではありませんが、平時に合意しておく論点を見つける参考になります。
最初の案内には「次に知らせる時刻」を入れる
障害案内で最も困るのは、「復旧までお待ちください」とだけ伝え、その後の更新が途切れることです。復旧見込みが分からないなら、分からないと伝えられます。ただし、次回の案内時刻は自社で決められます。
最初の案内では、発生を確認した時刻、影響範囲、利用者が今できること、代替窓口、次の更新時刻を一組にします。顧客窓口と営業責任者は、どの顧客へ個別連絡するか、Webなどで一斉に知らせるか、約束した納期を誰が調整するかを合意します。提供元の説明をそのまま転送するのではなく、自社サービスへの影響へ置き換えます。
社内では、担当者個人の連絡先だけに通知を集めません。共有窓口、代理担当、対応記録の保管場所を決め、夜間や休日にも次の案内が止まらないかを確かめます。
原因の説明が更新されなくても、影響、代替手段、次回連絡の三点は自社の責任者が更新できます。
代替運用は、速さより取り違えを防ぐ
手作業への切替には別の危険があります。停止前に受け付けた依頼を再入力し、同じ処理を二度行う。手作業で完了した案件がAIの復旧後に未処理として残る。急いで共有した表に、本来渡してはいけない情報を載せる。代替手順は「人が代わりにやる」の一言では動きません。
受付記録に、未着手、処理中、手作業で完了、保留、状態不明という区分を付けます。どの区分を誰が更新し、顧客への回答と結び付けるかを決めます。通常手順より確認が減るなら、扱う件数や対象を絞ります。契約や料金、支払いなど後から戻しにくい処理は、承認者がそろうまで保留する選択も必要です。
別のAIサービスへ切り替える場合も、急場だからと顧客情報をそのまま移しません。代替サービスで扱える情報と契約・設定を事前に確認しておきます。未確認なら、承認済みの社内資料と手作業で続けられる範囲へ絞ります。
外注先とは、調査してほしい連携箇所、返してほしい記録、報告間隔を合意します。提供元への問い合わせ番号、自社の案件番号、顧客への案内を対応させると、誰の「対応中」なのかが分からなくなるのを防げます。
「応答が戻った」だけでは業務を再開しない
提供元が復旧を告知し、画面に回答が出れば、技術上は回復したように見えます。しかし、自社の業務を戻す前には、少なくとも三つを確かめます。
まず、代表的な処理と重要な連携が正常に完了するか。次に、停止中の案件を一覧にし、手作業分と再処理分を区別できるか。最後に、顧客案内、処理記録、請求など周辺の仕事まで戻せるかです。再開を承認する人は、技術担当の試験結果と業務責任者の照合結果を受けて決めます。
NISTのAIリスクマネジメントフレームワーク は、役割、関係者、記録を含む継続的な管理の観点を示す任意の枠組みです。法令でも、個別サービスの復旧を保証する基準でもありません。本稿で示した分担と再開手順は、これらの観点を各社の業務へ当てはめるための提案です。
再開の合図は提供元の表示ではなく、重要処理の試験、停止中案件の照合、顧客案内の更新がそろったことです。
障害の通知から顧客案内・代替処理・再開判断まで訓練で通す
外部AIの停止では、原因を突き止める人だけを決めても顧客は守れません。技術担当、外注先、顧客窓口、業務責任者が、何をいつ共有するかを事前に合わせておく必要があります。
障害を想定した短い訓練では、通知が届くか、最初の案内を作れるか、代替処理を記録できるか、再開を承認できるかまで通します。そこで止まった箇所が、次の障害までに直すべき連絡と判断の境目です。